1985年と言えばもうずいぶん時間が経った気がするけれど、この年はそういえば2つの詐欺事件で世の中が賑わっていたと思う。
あえてこの事件に注目したのは事件の主犯格とされる2人はどちらも私と同じ世代。
豊田商事の故永野一男は私の1つ年上。
投資ジャーナルの故中江茂樹は学年は私と同学年。
この2つの事件は今考えてもかなり衝撃だった。
目次
豊田商事事件
ちょうどバブル真っ只中の頃、衝撃的な事件はほとんど生中継に近い形で全国放送された。
豊田商事は詐欺まがいの方法で資金を2000億円程度集めたとされる。
それは金の保有を勧めると言うもの。
金は値下がりしないとの触れ込みで主にお年寄りを中心に営業マンが声をかけたのだ。
最初は電話でオペレーターが話しかける。
そして脈のありそうなところへは担当の営業が赴いて首を縦に振るまで絶対に帰らない姿勢でお金を吐き出させた。
そして金を実際に渡す事はなく、紙切れ1枚の交換証券を渡して 片付けられた。
しかし、これら集めたお金で実際に金を所有していたわけではない。
ほとんど全てが豊田商事の従業員に給料として支払われていた
つまり何かの時にお金に戻そうと思ってもそれはできない仕組み。
既に被害者が声を上げ始めており、社会的にも随分と注目されていた事件だが、最後の事件は衝撃的な内容で、風体の悪い男2人組が会長宅まで押し掛けて、報道陣がいる目の前で会長を刺殺する事件になってしまったのだ。
そしてその時の様子はテレビで事細かに報道された。
YouTubeでも検索すればその画像は簡単にヒットする。
社会的にもずいぶん問題になった事件。
報道陣がなぜ止めなかったのだとずいぶんと苦情も殺到したようだが。
しかし、このことを特集したテレビの番組を見てみると、そこに居合わせた報道陣は必ずしも手をこまねいて見ていたわけではない。
きちんと警察を呼び対処しているようだ。
ただし、この映像からは中の様子はわからないが、部屋の中に入り込んだ犯人がわずか数分の間に会長を刺殺して出てくる様子がリアルタイムで描かれている。
さらに、この事件の被害者たちは後に被害者の会を結成して、お金を取り戻すことを第一に活動を始めたのだが、中には自殺した人たちもいたと聞いている。
今でもそうだが、詐欺に合う人たちを責めてしまう風潮が世の中には存在。
さもしいからダマされる。
ダマされた側の責任。
そういった言われ方をするのだ。
しかしあえてそのことには言及せずに考えてみると、やはり詐欺は詐欺なので、きちんと取り締まる必要が。
法律や条例の遥か上を行くのが人間の欲望。
今でも主流となっている振り込め詐欺等、こういった事件もこの辺から出発しているのでは。
この事件以降、詐欺行為が大きくクローズアップされることになる。
投資ジャーナル事件
中江茂樹は株式投資の専門家として必ず儲かるをうたい文句におよそ580億円を集めたと聞いている。
もちろん必ず儲かる株式投資などあり得るはずもない。
集めたお金はすぐに焦げ付き、回収不能はおろか、結局は詐欺として刑事訴追されることに。
この事件の特徴的だったのは、首謀者の中江茂樹が自首する形で警察に出頭してきたこと。
それには理由があって、豊田商事事件を受けて自分も殺されてしまうのではと恐怖に駆られたようだ。
豊田商事事件では犯人2人は懲役10年と懲役8年の刑が確定していた。
人をあのような形で殺しても死刑になるわけではない。
何のためらいもなくあっさり人を殺してしまうその精神構造の方がよっぽど問題ありと誰しもが思うだろう。
本人は気に入らないから殺したとそう言っていたようだが。
中江茂樹は基本的には詐欺師だったが、これらの人殺しをする犯人たちには理屈は一切通用しないと本能的に悟ったのかもしれない。
事件の顛末
豊田商事事件のときにはだまし取られた2000億円をどのように回収するかで管財人たちは死力を尽くして頑張ったと番組の中では語られていた。
結局、あちこちを捜索してみたが実際に金目のものは全く残っていなかったのだ。
本来契約上は2000億円に匹敵するだけの金が保有されていなければならなかったのだが、そこは天下の詐欺事件。
初めから金を準備した様子など皆目なかったと言われている。
要するにダマすことが目的だったようだ。
集めたお金は全て社員たちの給料や遊興費に当てられた。
実は、このことを管財人は非常に重視した。
もともと詐欺行為を働いて得た収入等は課税されたときにその分は債権回収の対象になるべきだと、そのように訴え出て、そしてその願いは叶えられることに。
そうして必死で頑張った結果回収できた金額が200億円弱。
力が及びませんでした
と被害者に謝っている管財人たちがひどく哀れに感じた。
未来へ向かうために
詐欺師を許す許さないの議論はこの際置いておいて、私たちが未来へ向かうためには何にも増してダマされない強靭な精神力が必要なのかも。
世の中全てを疑って生きていけるわけではないが、もしこちらにさもしい気持ちがどこかにあるならばそれは詐欺師に付け入る隙を与えてしまうことに。
大抵の場合お金が絡む詐欺事件が圧倒的に多いが。
同じように多いのは色恋沙汰の詐欺事件だろう。
人は孤独な生き物で、どうしても優しくされたり言い寄られたりするとそちらへなびいてしまう。
しかしよくよく胸に手を当てて考えねばならない。
客観的に見てどうなのだろうかと。
この2つの事件以降様々な詐欺対策の啓蒙運動が始まることに。
この2つの事件を画策した2人は既にもうこの世にはいない。
永野一男はわずか32歳でこの世を去っている。
中江茂樹は今年の2月66歳で火事で焼死しているようだ。
さらにその時彼が住んでいたアパートは48,000円だったとのこと。
580億円をだまし取った顛末がこの程度。
未来へ向かって生きるためには、どうしてもしっかりと目を見開かなければならないだろう。
もちろん夢も希望も必要だ。
しかしあえて言わなければならないのは、その夢や希望にさもしい根性が混ざってはいないだろうか。
さもしさはすなわち隙を見せること。
よくよく自分の胸に手を当てて考えねばなるまい。