描かれた物語の設定は、どうやら1970年頃。
戦争も終わり、日本は高度経済成長の取っ掛かりの時期に当たっていたと思う。
実はこの頃はまだ尊属殺人の取り決めはそのまま残されていたような。
私が小学校中学校の頃は殺人罪の中でも尊属殺は通常よりも罪が重いと教えられていた記憶。
自分より目上のものを殺めるのは重罪とする規定。
寅子たち裁判官は尊属殺規定の見直しと少年法改正反対をスローガンとして掲げていた。
特に寅子の専門は家庭裁判所における少年少女の扱い。
少年法は少年の更生こそが目的であるとして、譲らない。
この時代日本ではかつてからの様々な法律の規制を見直す動きが盛んに。
法律をどのように運用するか、私自身この時代の当事者だったので記憶にも新しいが、正直なところ何も考えずに生きていたと思う。
明治維新とか、太平洋戦争直後の頃の若者の切迫感のようなものは全く感じていなかったように記憶。
毎日楽しく愉快に生きれればそれでいい。
今思い返しても呆れる位に自分勝手な人生感。
1970年頃を振り返ってみると、既に戦後を意識する事はかなり希薄だったのでは。
少なくとも私の周りで貧しさを象徴するような事件はなかったような。
残りわずかとなった「虎に翼」は物語の進行スピードを緩めることなく全力で時代を駆け巡る。
目次
少年法を見直す動き
この時代、少年少女による凶悪な事件が増えてきた事は事実としてあっただろう。
それに対して、世の中が少年法の厳罰化を求める動きに傾いていたのも事実。
桂場は最高裁判所の長官として政治的な圧力にさらされていた。
要するに裁判所が正しく機能していないからではないかと。
物語を見ていて感じたのは言いがかりにしか感じなかったこと。
委員会の様子も最初に改正ありきで議論が進められようとしていた。
そのことに真っ向から否を唱えたのは寅子たち判事。
単純に考えて罪を重くすれば抑止力になると思うのはかなり短絡的。
重い罪で処罰されるから犯罪を犯すことへのブレーキになると思う考え方は単純すぎやしないか。
罪を犯す人間がそんな下世話ことをいちいち気にするだろうか。
逃げようがなく犯罪に手を染めるしかなかったものだって大勢いるはず。
結果について思いを巡らせるだけの思慮深さがあれば最初から罪になるような事はしない。
世の中で機能する司法とは
最高裁判所のトップは桂場。
航一はその中で最高裁判所で審議すべき案件についての調査報告が仕事。
つまり上告として持ち込まれた案件が審議すべきかどうかをあらかじめ調べる。
航一は戦前総力研究所で日本の国力で戦った場合、アメリカに勝てるかどうかを調査する秘密機関に所属。
彼はそこで戦争に負けると結論づけたにもかかわらず、意見は無視され戦争に突入後日本は敗戦することになった。
航一の人生の中でも特にトラウマとなるような辛く厳しい体験。
物語で描かれた1970年は登場人物それぞれにとって転換点となるべき象徴的な年。
当時の映画館とか、喫茶店とかステレオなどの電化製品。
もちろん電話は黒電話が主流で携帯電話などあるはずもなく。
世の中は慌ただしさと、落ち着きのなさ。
しかし、振り返れば夢も希望も今以上に濃厚だった気が。
星家のそれぞれ
寅子は少年法の扱いについて気を病むことが多かった。
さらには尊属殺について思いを巡らせることも。
親兄弟を殺せば殺人罪か無期懲役が適用されるのは法のもとに平等であることを謳った憲法14条に反する。
つまり加害者も、特に被害者も平等に守られ裁かれなければならない。
法の元の平等は条件によっていちいち変わるべきものではない。
誰のための法律
どうやら裁判所内で人事異動があったような様子。
普通高等裁判所とか最高裁判所で働く人たちにはよくはわからないが、家庭裁判所や地方裁判所に比べて多少なりとも優越意識があるのかも。
航一の長男朋一が家庭裁判所に配属される事は明らかに降格処分と言える。
本人は絶対に納得できないだろうね。
こういった人事異動は受けた者にしかわからない葛藤とか悔しさがある。
かつて会社勤め時代、私もこのような人事を食らったことが。
それは直属の上司に仕事上で大きく立てついたから。
怒った上司は私を見当違いの場違いな部署へ配属。
私のいなくなったポジションは仕事ができなくなって困り果てたと後から聞いた。
およそ1ヵ月後仕事ができなくなった会社内で再び私は元の場所に復帰。
普段やっている仕事は、実際の当事者と周りの人では明らかに温度差が。
必ずとは言わないが、当事者の意見を無視して仕事がうまくいく事はほぼないと断定できる。
ただし、実際に仕事をするものは周りの意見にとにかくよく耳を傾けていなければいろんな意味で暴走する危険があると肝に銘じておかなければいけない。
私の上司もずいぶんと苦しんだだろうし、私もかなり辛い思いをした。
しかし、1度ぶつかり合ったことでお互い腹を割って意見を交わすことができたのも事実。
無駄なことではなかったと今でも確信してる。
残りの話数で描かれる「虎に翼」はどんな物語を見せてくれるんだろう。